給与所得者等再生について ~小規模個人再生との比較~

1 小規模個人再生

(1)再生手続開始要件(代表的な前提要件)

   ・「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれ」があること(民事再生法(以下略)21条1項)

   ・「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があること(221条1項)

「再生債権の総額が5000万円を超えない」こと(221条1項)

(2-1)再生計画認可要件(前提要件)

   ・174条2項

   ・計画弁済総額が最低弁済額(1500万円以下のケースで、債権総額の5分の1又は100万円のいずれか多い額)を下回っていないこと(231条2項4号)

・清算価値保障原則を充たしていること(174条2項4号:破産をしたと仮定した場合にどのくらいの配当がなされていたのかを想定して、その配当率以上の弁済率でなければならない)

(2-2)再生計画認可要件(給与所得者等再生との関係で重要な要件)

   ・230条6項

→再生計画が認可されるためには、債権者の消極的同意(異議を述べないこと)が必要

    具体的には、不同意回答をした債権者が債権者の頭数総数の半数に満たなかった場合で、かつ、不同意回答をした債権者の再生債権額が再生債権総額の2分の1を超えなかった場合には、再生計画案は可決したものとみなされる

以上より、債権者からの消極的同意を得られない可能性がある場合、又は、実際にそうなった場合には、給与所得者等再生を検討する必要がある

ex 債権者の方針として、異議を出すことにしている場合

  (特に、その債権者の再生債権額が再生債権総額の2分の1以上である場合)

   個人債権者の場合

2 給与所得者等再生

・小規模個人再生よりも減額幅は小さくなる可能性があるが、債権者の消極的同意が不要であるというメリットがある

 ・給与などの定期的で安定的な収入があるため、再生計画履行の確実性が高いことから、債権者の決議なしに再生計画を認可するという制度

(1)再生手続開始要件

・上記1(1)に加えて求められる要件

A:「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある」こと

B:「その額の変動の幅が小さいと見込まれる」こと

   →これらは、再生手続開始要件でもあり(239条1項)、再生計画認可要件でもある(241条2項4号)

  ・特に②について

給与所得者等再生における計画弁済総額の基準となる可処分所得の算定方法について、再生計画案提出前の2年間において定期的な収入の額に5分の1以上の変動があった場合には、通常の場合と異なる特別な算定方法を用いなければならない(241条2項7号イ)

→「定期的な収入の額の変動の幅が小さい」かどうかについても、変動の割合が年収換算で5分の1(20パーセント)未満なのかどうかかが“一応の”判断の基準とされる(しかし、5分の1変動があっても、再生計画は認可されうるので(241条2項7号イ)、あくまで一応の判断基準にとどまる)

(2)再生計画認可要件

・上記1(2-1)(241条2項1号・2号・5号参照)に加えて求められる要件

C:弁済金額は、可処分所得額の2年分以上であること(241条2項7号)

・なお、上記1(2-2)の要件は不要となる

   ・Cについて

    241条2項7号ハ(原則)

→可処分所得額の2年分とは、「再生計画案の提出前2年間の再生債務者の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を2で除した額」(≒手取り年額)から「再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額」(・・・1年間の想定生活費)を控除した額に2を乗じた額であり、計画弁済総額はこれ以上である必要がある

要するに、下記のとおり

〔再生計画案提出前2年間の収入合計額〕 〔再生計画案提出前2年間に支払った所得税額、個人の道府県民税又は都民税、個人の市町村民税又は特別区民税、社会保険料の合計額〕)÷ 2 = 〔手取り年額〕

〔手取り年額〕 〔再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額〕)×

= 可処分所得額の2年分

例外的な場合として、241条2項7号イ・ロがある

イ:債務者の年収が再生計画案提出前2年間の途中で5分の1以上の変動があった場合

ロ:債務者が再生計画案提出前2年間の途中で給与所得者等に新たになった場合

→事情後の収入額をもとにして可処分所得額を算出する

    〔手取り年額〕算出のための資料

     ・収入:源泉徴収票、所得証明書

     ・所得税、社会保険料:源泉徴収票

     ・県民税、市民税:課税証明書

    〔1年間の想定生活費〕について

「再生債務者及びその扶養を受けるべき者の年齢及び居住地域、当該扶養を受けるべき者の数、物価の状況その他一切の事情を勘案して政令で定める」ものとされており(241条3項)、この政令とは、「民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令(平成十三年政令第五十号)(※施行日:民事再生法等の一部を改正する法律(平成十二年法律第百二十八号)の施行の日)」をいう

したがって、「再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額」は、現実に支出した生活費ではないことに注意

←債務者が可処分所得額に基づく精一杯の弁済を行うという計画を作成した場合には、その拒否権を債権者に与えない反面、可処分所得額は誰にでも予測し算出できるものである必要があるため、算定に用いる資料を客観的なものとしている

《参照条文:民事再生法》

21条1項

債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるときは、債務者は、裁判所に対し、再生手続開始の申立てをすることができる。債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときも、同様とする。

174条1項

再生計画案が可決された場合には、裁判所は、次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。

174条2項

裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。

一 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができ ないものであるとき。ただし、再生手続が法律の規定に違反する場合において、当該違反の程度が軽微であるときは、この限りでない。

二 再生計画が遂行される見込みがないとき。

三 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。

四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。

221条1項

個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が五千万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。

230条6項

第4項の期間内(=再生計画案の提出があり、裁判所が再生計画案を決議に付する旨の決定をした場合に、その旨を公告した裁判所から再生計画案の内容又はその要旨を通知された議決権者のうち、再生計画案に同意しない者がその旨を回答すべきとされる裁判所の定める期間内)に再生計画案に同意しない旨を同項の方法により回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず、かつ、その議決権の額が議決権者の議決権の総額の二分の一を超えないときは、再生計画案の可決があったものとみなす。

231条1項

小規模個人再生において再生計画案が可決された場合には、裁判所は、第百七十四条第二項(当該再生計画案が住宅資金特別条項を定めたものであるときは、第二百二条第二項)又は次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。

231条2項4号

小規模個人再生においては、裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合にも、再生計画不認可の決定をする。

四 第二号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が三千万円以下の場合においては、計画弁済総額が基準債権の総額の五分の一又は百万円のいずれか多い額(基準債権の総額が百万円を下回っているときは基準債権の総額、基準債権の総額の五分の一が三百万円を超えるときは三百万円)を下回っているとき。

239条1項

第221条第1項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。

240条2項

前項の決定(=給与所得者等再生において再生計画案の提出があった場合に裁判所が行う、再生計画案を認可すべきかどうかについての届出再生債権者の意見を聴く旨の決定)をした場合には、その旨を公告し、かつ、届出再生債権者に対して、再生計画案の内容又はその要旨を通知するとともに、再生計画案について次条第二項各号のいずれかに該当する事由がある旨の意見がある者は裁判所の定める期間内にその旨及び当該事由を具体的に記載した書面を提出すべき旨を通知しなければならない。

241条1項

前条第二項の規定により定められた期間が経過したときは、裁判所は、次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。

241条2項

裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。

一 第百七十四条第二項第一号又は第二号に規定する事由(再生計画が住宅資金特別条項を定めたものである場合については、同項第一号又は第二百二条第二項第二号に規定する事由)があるとき。

二 再生計画が再生債権者の一般の利益に反するとき。

三 再生計画が住宅資金特別条項を定めたものである場合において、第二百二条第二項第三号に規定する事由があるとき。

四 再生債務者が、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者に該当しないか、又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しないとき。

五 第二百三十一条第二項第二号から第五号までに規定する事由のいずれかがあるとき。

六 第二百三十九条第五項第二号に規定する事由があるとき。

七 計画弁済総額が、次のイからハまでに掲げる区分に応じ、それぞれイからハまでに定める額から再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な一年分の費用の額を控除した額に二を乗じた額以上の額であると認めることができないとき。

イ 再生債務者の給与又はこれに類する定期的な収入の額について、再生計画案の提出前二年間の途中で再就職その他の年収について五分の一以上の変動を生ずべき事由が生じた場合 当該事由が生じた時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税、個人の道府県民税又は都民税及び個人の市町村民税又は特別区民税並びに所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第七十四条第二項に規定する社会保険料(ロ及びハにおいて「所得税等」という。)に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額

ロ 再生債務者が再生計画案の提出前二年間の途中で、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった場合(イに掲げる区分に該当する場合を除く。) 給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額

ハ イ及びロに掲げる区分に該当する場合以外の場合 再生計画案の提出前二年間の再生債務者の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を二で除した額

241条3項

前項第七号に規定する一年分の費用の額は、再生債務者及びその扶養を受けるべき者の年齢及び居住地域、当該扶養を受けるべき者の数、物価の状況その他一切の事情を勘案して政令で定める。

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